トップ・ページの表示 注意書きの表示 掲示板に書き込む前に必ず この ”注意書き”を お読み下さい.

"Reportage Pickup Report"

   
   

ページの表示順:{ 新しい順/ 古い順}.
初期・ページの表示・位置:{ 先頭ページ/ 末尾ページ}.
1ページ内のスレッド表示数:







<Number>: [000001C9]  <Date>: 2014/04/12 13:40:59
<Title>: 「21世紀のペスト」鳥インフルエンザ
<Name>: amanojaku@管理人



『発生は時間の問題、「21世紀のペスト」』(1)より引用.
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/bookreview/37/

 インフルエンザを「高い熱が出る風邪の一種」と思っている人は多いだろう。「確かにかかると大変だ。数日間は高熱に呻吟(しんぎん)することになるし、体の節々が痛くてたまらなくなる。が、命にかかわるような病気ではない。毎年冬になると流行するが、運が悪ければかかる程度の病気だろう。春になればいつのまにか消えているものだ」―― そんな風に思っているのではないか。

 そもそもインフルエンザワクチンは任意接種だし、効かないという話だってあるではないか。身近にもワクチン接種を受けたのにインフルエンザにかかった人がいるという人も少なからずいるはずである。

 ここ数年、「鳥インフルエンザ」という言葉がメディアをにぎわせている。鳥インフルエンザというからには、鳥がかかるインフルエンザだろうが、なぜ、鳥のインフルエンザに、あれほど大騒ぎをするのだろうか。鳥がかかる風邪の一種ではないのか。

 日本では2004年と2007年に鶏舎の鶏が大量死したことから鳥インフルエンザウイルスの侵入が発見され、大規模な防疫作業によりまん延を食い止めている。

 しかし、あれほど大規模な防疫がなぜ必要なのか理解している人はどれぐらいいるだろうか。まだ発病していない大量の鶏を殺して焼却処分にし、周辺がじゃぶじゃぶになるほどの消毒薬を散布する理由を、あなたは理解しているだろうか。全身を覆う防護服を身につけた作業者の映像をテレビで観て「鶏がもったいないな。俺なら食べちゃうね」と思った人はいないだろうか。

 なぜ鳥インフルエンザがそこまで恐れられているのか ―― それは鳥インフルエンザが「ただの風邪」ではないからだ。いや、それどころか「冬に流行するいつものインフルエンザ」ですらない。

 国立感染症研究所・感染症情報センターのホームページを見てみよう。鳥インフルエンザに関する最新の情報が掲載されている。感染症例の報告を見ていくと、去年から今年にかけてインドネシアで人への感染が続発していることが分かる。

 感染確定症例数を見ると2月12日現在、インドネシアにおける累積の感染者数は127人。うち103人が死亡している。

 死亡率は実に81%だ。感染者の5人に4人が命を失っている。これはとてつもない死病と言わねばならない。「ただの風邪」ではあり得ない。後段で述べるように、新型インフルエンザがもしも世界的に流行したら、日本では第二次世界大戦と同じぐらいの死者がでると予想されているのだ。

 現在の鳥インフルエンザは、「高病原性鳥インフルエンザ」と呼ばれている。ひとたび感染すると死亡率は非常に高い。しかも専門家の間では世界的な流行は時間の問題だとされている。

 今、世界は「21世紀のペスト」というべき伝染病が流行する瀬戸際で踏みとどまっているのである。

 にもかかわらず現在、社会的に大きな危機感が醸成されていないのは、ひとえに「インフルエンザ = 風邪の一種 = たいしたことがない病気」というイメージが一般に流布しているからだ。

 専門家達は何年も前から声を大にして警告していた。しかし、一般も、行政も、政治も、その恐ろしさにまだ気が付いているとは言い難い。

 鳥インフルエンザは風邪でもなければ、毎年冬になるとやってくるいつものインフルエンザでもない。それは現代社会に死の大鎌を振るう死に神となる可能性を秘めている。

『発生は時間の問題、「21世紀のペスト」』(2)より引用.
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/bookreview/37/index1.html

 「H5N1型ウイルス襲来」は、鳥インフルエンザのような新型のインフルエンザがそれまでのインフルエンザとは全く異なる新種の伝染病であることを強調するところからまず始まる。

 では新型インフルエンザとはどんな病気なのか。

「数十年に一度の割合で、インフルエンザウイルスは、これまでと全く違うウイルスに取って代わって、大流行します。このフルモデルチェンジしたウイルスが『新型インフルエンザ』で、鳥インフルエンザウイルスが、遺伝子の突然変異を起こしたり、鳥と人のインフルエンザウイルスが交雑したりして発生することがわかっています。
                 (中略)
 もともとが鳥のウイルスですから、この新型インフルエンザに免疫を持つ人はほとんどいません。このため、このウイルスに曝された人は、ほぼ100%感染してしまいます。それに免疫がない分、重症化しやすいことになります。
                 (中略)
インフルエンザウイルスは、咳やくしゃみなどによる飛沫感染だけでなく、ウイルス粒子が空中を長時間、浮遊して、それを人が吸い込むことによって起きる空気感染でも伝播します。そのため、新型インフルエンザが発生すると、多くの人が同時期にかかって、大流行を起こすのです。」(「H5N1型ウイルス襲来」pp.17〜18)

 この簡潔な記述だけでも色々な事実を理解することができる。インフルエンザウイルスには、人にかかるものや鳥にかかるものがあること。鳥のインフルエンザと人のインフルエンザが交雑して、新型のウイルスが発生することがあること、そしてフルモデルチェンジした新型インフルエンザウイルスは、大流行になる可能性が高いこと――。

 続いて著者は、鳥インフルエンザにも多数の種類があり、そのなかには高い死亡率を示す強毒性のウイルスが存在すると説明する。これが「高病原性鳥インフルエンザ」であり、かつては「家禽ペスト」と呼ばれていたものだ。

 現在「家禽ペスト」という用語は正式に使われてはいない。しかし、長く覚えにくく、しかも「インフルエンザ」と付くことで「たいしたことはない」と思いがちな「高病原性鳥インフルエンザ」よりも、「家禽ペスト」のほうがはるかにその猛威を分かりやすく伝えるネーミングといえるだろう。

 鳥にとって致命的な病気であっても、人間に伝染しないならばなんということはない。しかし最新の医学は、鳥、人、そして豚が同じインフルエンザという病気を共有しており、それぞれのインフルエンザウイルスは、交雑し合い、各々の形質を交換し合っていることを明らかにした。つまり、いずれ人のインフルエンザは、いずれ鳥インフルエンザの性質を獲得するのは避けがたいということだ。

 これは鶏舎の鶏がばたばたと死んだのと同様に、感染した人がばたばたと死亡する病気、それも空気感染する伝染病が発生する可能性を意味する。

 いったい「高病原性鳥インフルエンザ」の何が「高病原性」なのか。この疑問も、「H5N1型ウイルス襲来」は簡潔かつ簡明に説明している。

「この(松浦注:高病原性)鳥インフルエンザウイルスは、通常のインフルエンザウイルスが、ニワトリの上気道と消化器での局所感染にとどまるのに対して、ウイルスが血液に乗って全身に広がり、全身感染を引き起こします。そして、1〜2日で感染したニワトリを100%殺します。
 さらにこのウイルスは、トラ、ネコ、テン、ブタ、イヌ、ネズミなどの哺乳類にも感染し、同様の全身感染を起こします。それは人での感染も同様で、感染すると、鳥や動物と同じく、ウイルスが血流に入って全身感染をもたらします。」(「H5N1型ウイルス襲来」p.31)

 ウイルスは生物ではない。それ自身は複雑な構造を持つがただの物質だ。しかし生物の細胞の中にはいると、細胞の中の仕組みを乗っ取って増殖し、最後に細胞を破壊して外に出てくる。インフルエンザに喉をやられるというのは、気道の粘膜細胞にウイルスが感染し、細胞が破壊されるということだ。「インフルエンザで下痢が止まらない」という状態は、腸の粘膜細胞がウイルスに取りつかれて破壊されているわけである。

 しかし、高病原性鳥インフルエンザの場合、全身のあちこちの組織がウイルスに取りつかれ、その細胞が破壊されるのである。

 さらに、サイトカインストームという現象も起こる。インフルエンザにかかると、全身の免疫が過剰に反応して正常な自分の生体組織を攻撃してしまうことがあるのだ。これは、免疫が活発な子どもや若年層ほど、危険な状態になりやすいということを意味する。事実、過去のインフルエンザの世界的大流行では、老人よりも子どもや若者のほうが死亡率は高いことが確認されている。

『新型インフルエンザの“リアル”を語ろう』(2)より引用.
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/90/index1.html

――トリの世界では、強毒型の高病原性鳥インフルエンザが既にパンデミック状態になっているということですか。

田代:そうです。鳥の世界では、今現在パンデミックが現実に進行しているのです。

 1997年の香港では、鳥の間でパンデミックになるのを食い止めたと思われました。しかし、2003年春に日本と韓国で、中国から輸入した冷凍鴨肉からウイルスが検出されました。

 中国当局は「そんな事実は確認されていない」としていますが、おそらくは中国のどこかでオリジナルのウイルスが流行を起こしていたのではないかと推定されます。鴨は、強毒型のH5N1ウイルスに感染しても症状が出ませんから。

 2004年に入ると山口県と京都府で、鶏舎の鶏が大量死したことでウイルスの侵入が確認されました。同時期に韓国でも鶏の大量死が起きています。これらのウイルスは2003年に中国産鴨肉から検出されたものと同じでした。

 その後ベトナム、カンボジア、タイでも流行が起こりました。これらのウイルスは、韓国で流行したものと少し違う。現在インドネシアで流行しているウイルスも、これらとはちょっと違います。

――違うというのはどういうことでしょう。H5N1ウイルスにも種類があるということでしょうか。

田代:そういうことです。鳥の世界での流行は2003年後半から始まっています。インフルエンザウイルスは非常に突然変異を起こしやすいので、H5N1ウイルスは現在までに10系統の少しずつ異なる亜種に分化しています

『新型インフルエンザの“リアル”を語ろう』(3)より引用.
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/90/index2.html

トリ型からヒト型への変異は時間の問題

――非常に強い毒性を示すにもかかわらず、累計の全世界での死者は360人ほどと非常に少ないです。これはなぜなのでしょう。

田代:現在のH5N1が、まだヒトからヒトへと感染する特性を獲得していないからです。

 にもかかわらず、現実に患者が出ているわけですが、実のところ現状ではどういう人がかかるのかよく分かっていません。鳥との濃厚な接触で、大量のウイルスを体内に取り込んでしまったという可能性はあるのですが、それだけではないのです。インドネシアの場合、患者の25%は鳥との接触がありませんでした。中国の患者も鳥との接触がありません。しかも、鳥の世界で流行が起きていない地域でも、人への感染が起きています。これが何を意味するのかは、まだ分かっていません。

 ウイルスの遺伝子の、どの部分がどう変わるとトリ型からヒト型へと変化するのか、本当のところはまだよく分かっていません。ウイルスが細胞に侵入する時に使うレセプターという部位は、トリ型とヒト型ではアミノ酸が1、2カ所違うだけです。既に2カ所のアミノ酸がヒト型と同じに変異したH5N1ウイルスが見つかっていますが、それでもまだパンデミックには至っていません。

――それは、「そう簡単にトリ型からヒト型になることはない」という安心材料と考えてよいのでしょうか。

田代:そうではありません。ウイルスは増殖の過程において、ある一定の確率でランダムな突然変異を起こします。そしてH5N1ウイルスは、既に鳥の世界ではパンデミックを起こしています。パンデミックということは、鳥の体内でウイルスが非常に多数回の増殖を行っているということです。確率的に、ヒト型ウイルスが出現する可能性はぐっと上昇しているのです。

 例えばサイコロを1回振ると1の目が出る確率は、1/6です。しかし2回振って少なくともどちらかで1の目が出る確率は11/36で、1/6より大きくなります。サイコロを振る回数が増えれば増えるほど、少なくともどこかで1が出る確率は1に近づいていきます。

 鳥の世界でパンデミックを起こしているということは、サイコロを振る回数が増えているのと同じです。ヒトに感染しやすいH5N1ウイルスが出現する確率はどんどん大きくなっていると考えなくてはなりません。

 ひとたび、ヒトに感染しやすい形質を獲得したウイルスが出現すれば、一気に広がるのは間違いありません。なぜなら、新たに出現したウイルスに対して免疫を持っている人はほぼ皆無だからです。感染したヒトからさらに別のヒトヘと広がる過程で、免疫によって拡大が阻止されるということがありません。

 どうやら、ウイルスがヒト型に近づきつつあるという傍証も存在します。トリ型のウイルスは、鳥の体温である42℃付近で増殖しやすく、それ以下の温度では増殖が鈍ります。一方ヒト型のインフルエンザウイルスはヒトの体温である35〜36℃付近で活発に増殖します。同じインフルエンザウイルスでも増殖に適した温度が違うのです。

 ところが、先ほど説明した「クレード2-2」の亜種のH5N1ウイルスでは、既にヒトの体温で活発に増殖するように突然変異を起こしたウイルスが見つかっています。これは、ウイルスが着実にヒトに感染する形質を備えつつあることを示しています。

『新型インフルエンザの“リアル”を語ろう』(4)より引用.
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/90/index3.html

田代:やや専門的な話に踏み込みますが、強毒型と弱毒型の違いは、ウイルス表面に並んでいるHAという糖タンパク質にあります。HAはごくかいつまんで説明すると、ウイルスが細胞に取り付き、中に潜り込むにあたって重要な役割を果たします。大ざっぱな理解では、細胞膜を切り裂く“はさみ”だと思っていただいて構いません。

 HAはタンパク質ですからさまざまなアミノ酸が多数結合して出来ています。ウイルスが細胞に取り付くにあたってはHAのアミノ酸の並びの中でも、「開裂部位」と呼ばれる特定の部分の並びが重要な役割を果たします。

 弱毒型では、HAの開裂部位はアルギニンというアミノ酸が一つだけ付いています。一方、強毒型ではアルギニンとリジンというアミノ酸が6個から8個、並んで付いているのです。この違いが、ウイルスの細胞に入り込む能力の差となっています、生物のどの部位の細胞に取り付くことができるかは、HAの特定部位におけるアミノ酸の並び方が決めているのです。

 お分かりでしょうか。強毒型ウイルスが、弱毒型に変異するということは、HAの中の特定部位のアミノ酸が6〜8個連続して脱落することを意味します。つまり遺伝子としては連続した6〜8個の塩基の連なりが一斉に突然変異が起こすということです。

 このような突然変異は、全く起こりえないわけではないですが、非常に起きる確率が低いです。そのような非常に起こりにくい突然変異を「どうせ弱毒型に変異するだろう」とあてにしてはいけません。

――つまり、トリ型からヒト型への突然変異の過程で、強毒型が弱毒型に変化する可能性は非常に低いということでしょうか。

田代:そうです。ですから、最悪のシナリオは、強い全身感染とサイトカインストームを起こす性質を持ったまま、H5N1ウイルスがヒト型になるというものです。

 しかも、パンデミックの発生を考えると、むしろ突然変異により毒性が弱くなり致死率が下がったほうが危険であると考えねばなりません。感染者が死なずに移動すれば、それだけウイルスが広がるチャンスが増えますから。現在の致死率60%が、例えば20%に下がるとかえってパンデミックとしては危ないのです。

 膨大な被害を出した1918年のスペインインフルエンザの致死率が2%だったことを考えれば、致死率がたとえ20%程度にまで下がったとしても、過去に類を見ない大災害になる危険性があると言わねばなりません。

『新型インフルエンザの“リアル”を語ろう』(7)より引用.
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/90/index6.html

――米国が想定している致死率の20%は、これよりも下がる見込みはないのでしょうか。

田代:現在までのところ、鳥インフルエンザは致死率63%ほどですが、これらの患者はそれぞれの国で最高水準の医療を受けているということを忘れてはなりません。肺炎になれば人工呼吸器を付けますし、タミフルの大量投与も受けています。それでもなおかつ、この致死率なのです。

 パンデミックが起きると、まず人工呼吸器が足りなくなります。患者は重い肺炎を発症しますから、人工呼吸器なしては呼吸困難に陥ります。

 現状ではタミフルも不足するでしょう。日本はタミフルを2800万人分備蓄しているとしていますが、現在鳥インフルエンザ患者には、通常のインフルエンザの2倍の量を2倍の期間投与しています。つまり日本の備蓄量は実質700万人分でしかないのです。これでは全く足りません。過去の経験によれば、パンデミックでは第一波、第二波というように爆発的感染拡大が波状攻撃をかけてきます。現在の備蓄量では第一波をしのいだとしても、第二波以降はタミフルが尽きてしまいます。

 しかもパンデミックは、全世界同時に起こりますからその時になっても海外からタミフルを緊急輸入することはできないでしょう。タミフルを持っている国から「お気の毒ですが日本は日本で対応してください」と言われて終わりです。

 このように考えていくと、たとえ今後、ウイルスの突然変異で致死率が下がっていったとしても、パンデミック時の死亡率は高くなると言わざるを得ません。

 日本には危機に直面しているという意識がありません。パンデミック時に医療サービスをどうやって維持するのか。患者が病院に殺到すると、医療体制が崩壊します。崩壊を防ぐためには、感染の拡大を防いで、感染者が一気に集中する“流行の山”を低くすることが必要ですが、そのために具体的にどうすればいいのかは、まだ話し合われていません。

 そのほか、生活必需品の輸送やライフラインをどうやって維持するか。感染を避けるためには家庭への籠城が推奨されますが、では籠城を可能にするにはどのような環境を整備するのか。世界経済が一蓮托生になっている今、ビジネスをどうやって継続していくのかも大切な課題です。要するに準備が全然足りていないのです。

――パンデミックに対する備えはどのような方針で行うべきものなのでしょうか。

田代:パンデミック対策には、大きな柱が三つあります。まず封じ込めによって新型ウイルスの出現を回避することです。しかし現在、既に鳥の世界ではパンデミック状態になってしまい、封じ込めに失敗してしまいました。ヒト型ウイルスが出現した場合の封じ込めも、よほど運が良ければ可能、という程度しか期待できないと考えています。

 次の柱が健康被害を最小にとどめることです。限られたリソースの中でどうやって最大の効果を得て、感染者や死者を最小限にとどめるかです。この段階では、誰にワクチンを接種するか、誰にタミフルを投与するかという、厳しい選択を迫られます。事前に議論を尽くして誰もが納得する行動計画を策定しないと、社会的なパニックが起きる恐れがあります。

 最後が社会機能の維持です。先ほども言ったようにパンデミックは世界全体で同時に起きます。その時になれば海外からの援助は期待できず、日本は日本だけで難局を切り抜けねばなりません。社会秩序を維持し、経済を回し、電気・ガス・水道のライフラインに各種物流にゴミの回収といった事業の継続、さらには自給率が40%を切っている食料をどうやって確保し、国民に届けるか、すべて事前に議論し、行動計画を策定して、訓練を行っておかなければ、社会が崩壊し、悲惨なことになるでしょう。

『新型インフルエンザの“リアル”を語ろう』(10)より引用.
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/90/index9.html

プレパンデミックワクチンのリスクとベネフィット

――基本的にワクチンは、対象のウイルスがなければ製造できません。新型インフルエンザはまだ出現していないので、ワクチンの事前製造は不可能です。しかし、現在プレパンデミックワクチンというものが製造可能になっているそうですね。

田代:プレパンデミックワクチンは、今現在のH5N1インフルエンザウイルスで製造するワクチンです。

 過去の弱毒型ウイルスは、鳥が死なないので鳥の世界でどんなウイルスがパンデミックを起こしているかを調べるのが困難でした。幸か不幸か強毒型のH5N1ウイルスは感染した鳥を死なせてしまうので、どんなウイルスが広がっているかを調べることができます。

 プレパンデミックワクチンは、新たに出現するであろうヒト型のウイルスにぴったり適合するものではないのですが、同じH5N1のウイルスに対して一定程度効くであろうと予想されています。同じH5N1ならば、ある程度共通の免疫をつけることができるのです。これを交差免疫といいます。

 初期のころは、ワクチンを作っても大量に接種しないと免疫をつけることができないとか、クレード1の亜種で作ったワクチンは別のクレードに対する免疫をつけてくれないとか、さまざまな問題があったのですが、最近になってアジュパント(免疫増強剤)という物質を同時接種することで、かなりの効果が得られることが分かってきました。

 プレパンデミックワクチンは重要な対策手段です。国民の60〜70%に事前に接種しておくと、パンデミックが起きないという数理モデルを使った研究が発表されています。事前に全国民に接種しておくと、パンデミックによって発生する人的経済的被害を考えれば圧倒的な低コストでパンデミックを乗り越えることができるのです。

 スイスは国民全員にプレパンデミックワクチンを接種するとしています。フィンランドもスイスに続いて、国民全員への接種に動いています。

――米国はプレパンデミックワクチンをどう考えているのでしょうか。ご著書の「新型インフルエンザH5N1」(岩波科学ライブラリー)によれば、米国はプレパンデミックワクチンよりもパンデミック発生後のワクチン製造に力点をおいているということでしたが。

田代:米国は、初期の大量に接種しないと効かないタイプのプレパンデミックワクチンを、それでも頑張って2800万人分備蓄しました。そこへアジュパントの効果が判明し、1/10程度の少量接種でも免疫を発現させることが可能なことが明らかになりました。つまり米国は、対外的には公表していませんが、既に全国民分のプレパンデミックワクチンの備蓄が終わったのと同じ状況にあります。

 おそらく現在は、どのようなアジュパントを使えばより効果的に免疫を発現させることができるかを研究していると思います。

――では日本はどのような状況なのでしょうか。

田代:1000万人分の備蓄があり、2007年度予算でさらに1000万人分を積み増しすることになっています。それでも全人口、1億2800万人には全然足りません。

 しかもパンデミック発生時の接種体制がまったく出来ていません。備蓄ワクチンは7万人分ずつボトルに入れて保管しています。実際の接種のためにはこれらを小分けしてアンプルに詰め、接種する医師のところまで届ける必要があります。これに要する時間は、1カ月から1カ月半という見積もりです。これではせっかく備蓄していても、1週間で全世界に広がるであろうパンデミックを抑止する力になりません。

 さらには、具体的にどのような人々に優先的に接種するかの行動計画もまだ出来ていません。国民全員分を備蓄できないのなら誰に接種するかについて国は方針を明らかにして、事前に徹底した議論を行って国民的な合意を得なくてはなりません。でなければいざパンデミックとなれば、ワクチンを求める人々でパニックが起きてしまいます。

 ワクチンの保管期限は製造から3年です。3年が過ぎたら使えなくなります。ですからわたしは希望者には先行してプレパンデミックワクチンを接種すべきだと考えています。

 とはいえ、今のプレパンデミックワクチンは色々とギャンブルの要素があります。本当に新型インフルエンザに対する免疫をつけてくれるのかは本番にならなければ分かりません。多くの人に接種すれば、中には副作用が出る人もあるでしょう。そういうことを含めてリスクとベネフィットをきちんと説明しなくてはならないのです。その上で、ワクチンを希望者に接種していかなくてはならないだろうと考えています。

 接種を受ける人が増えれば、副作用などの事故は必ず起きます。そのリスクをどう評価するか。科学的なデータを提示して、きちんと説明し、国民の納得を得なくてはならないでしょう。

Block( Address 000001C9 Identity 000001C8 )






ページの表示順:{ 新しい順/ 古い順}.
初期・ページの表示・位置:{ 先頭ページ/ 末尾ページ}.
1ページ内のスレッド表示数:

   
   

管理者用 Password:

  




SMT Version 8.022(+A) Release M6.
Author : amanojaku.


- Rental Orbit Space -